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岐阜地方裁判所多治見支部 昭和55年(ワ)170号 判決

原告

八百健市場株式会社

右代表者代表取締役

水野治助

原告

西村裕

右両名訴訟代理人弁護士

浅井正

外四名

原告補助参加人

共栄火災海上保険相互会社

右代表者代表取締役

行徳克己

右訴訟代理人弁護士

池田伸之

外一名

被告

森川茂

被告

山名惠哉

右両名訴訟代理人弁護士

小出良煕

外一名

主文

一  被告らは原告八百健市場株式会社に対し、各自金一七五二万三二八一円及び内金二三七万八六五八円に対する昭和五三年七月一八日から、内金一五一四万四六二三円に対する昭和五六年四月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告八百健市場株式会社のその余の請求及び原告西村裕の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中参加によって生じた部分は参加人の負担とし、その余はこれを五分し、その二を被告ら、その余を原告らの各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告八百健市場株式会社に対し、各自金三九四〇万一九三九円及び内金一九九〇万一九三九円に対する昭和五三年七月一八日から、内金一九五〇万円に対する昭和五六年四月一日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは原告ら各自に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する昭和五九年九月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  交通事故の発生

日時  昭和四九年一〇月三〇日

場所  恵那市武並町竹折一七〇〇番地内国道一九号線上

加害車  原告西村運転の普通貨物自動車(岐一一は五四八三)

被害車  訴外加藤博運転の普通貨物自動車(岐一一さ三六二二)

事故の態様  被害車が県道から国道一九号線の多治見方面へ左折しながら進入したところ、折から右国道を反対方向から進行してきた加害車と衝突した。

2  訴外加藤の受傷

右大腿骨粉砕骨折等

3  原告らの責任

(一) 原告西村  前方不注視、追越禁止義務違反の不法行為

(二) 原告[会社?]  加害車の所有者で、自賠法上の運行供用者

4  医療事故の発生

訴外加藤は前記交通事故後直ちに被告森川の経営する岐阜県恵那市長島町中野六一六番地所在の森川病院に運ばれ、昭和四九年一一月八日には同病院に勤務する被告山名から内副子固定法による整復手術を受け、同五〇年一月二〇日まで同病院に入院していたが、その間大腿骨粉砕骨折部に骨髄炎を併発し、慢性化して患部の骨が壊死した結果、同五二年七月二五日岐阜県立多治見病院で右大腿部切断手術を受けるに至った。

5  被告らの責任

(一) 被告山名

(1) 訴外加藤の入院直後、採血培養により起炎菌の有無を証明し、起炎菌が決定された場合にはこれに対する感受性検査を行い、感受性の高い抗生物質を投与すべきであったのにこれを怠り、漫然薬効のないビスタマイシン、ジョサマイシンを投与した。

(2) 手術を施行するに当り、まず、諸検査を十分に実施し、手術をすべきかどうか、すべきとすれば如何なる時期が適切かを慎重に検討すべきであったのにこれを怠り、骨に対するかなりの侵襲があって細い骨片のある局所を切開するなど、手術条件の悪い時期に手術した。

(3) 骨折の手術に際しては、常に骨髄炎の発生があり得るとの認識にたって、完全な滅菌を施した上で手術をすべきであるのにこれを怠った。

(4) 手術方法としては、患部を広く切開する必要がなく、周囲の損傷の少ない、従って骨髄炎発症の危険の少ない閉鎖性髄内釘固定法によるべきであったのにこれを怠り、感染の危険度の高い内副子固定法を選択した。

(5) 術後約一か月間、訴外加藤は激痛と高熱に苦悶し、また、継続的に多量の排膿をみたのであるから、当然骨髄炎を疑い、起炎菌の決定、抗生物質の選択・投与等の治療を施すべきであるのにこれを怠り、適応範囲の広い、それだけに訴外加藤の起炎菌には効力のうすい抗生物質を投与したのみならず、その後抗生物質の投与すら打切り、ついに訴外加藤の骨髄炎を慢性化させてしまった。

(二) 被告森川

(1) 被告森川は自己の営む医業のために被告山名を使用していた。

(2) 被告山名は被告森川の医業の執行として訴外加藤の前記治療に従事していた。

6  訴外加藤の損害

原告らと被告らとの前記共同不法行為により、訴外加藤は次の損害を被った。

(一) 治療費 八四九万一八七六円

(1) 森川病院 一三五万四三〇〇円

昭和四九年一〇月三〇日から同五〇年一月二〇日まで入院

(2) 県立多治見病院

七一三万七五七六円

昭和五〇年一月二一日から同五三年八月一四日まで入院

昭和五三年八月一五日から同五四年三月二日まで通院

昭和五四年三月三日から同五四年三月一七日まで再入院

(二) 付添看護料

二九四万七五〇〇円

(1) 一日二〇〇〇円として昭和四九年一〇月三〇日から同五二年一〇月二九日までの三年分二一九万円

(2) 一日二五〇〇円として昭和五二年一〇月三〇日から同五三年八月一四日までの二八八日分及び同五四年三月三日から同月一七日までの一五日分の合計三〇三日分七五万七五〇〇円

(三) 入院諸雑費

六九万九〇〇〇円

一日五〇〇円として右入院三年と三〇三日分

(四) 入院中の食事代

一六七万七六〇〇円

一日一二〇〇円として右入院三年と三〇三日分

(五) 入院中の布団代

一六万七七六〇円

一日一二〇円として右入院三年と三〇三日分

(六) 入院中の文書代 六五四五円

県立多治見病院入院分

(七) 通院交通費 八万一〇〇〇円

一往復三〇〇〇円として昭和五三年八月二五日から同五五年一月一六日までの間の通院実日数二七日分

(八) 義足代 二八万二一〇〇円

(九) 休業損害

八四八万七四五二円

年収二二四万円(事故前三か月間の賃金合計五六万円)として昭和四九年一〇月三〇日から同五三年八月一四日(症状固定日)までの三年と二八八日分

(一〇) 後遺障害逸失利益

四六六七万六二三五円

・労働能力喪失九二パーセント(自賠法施行別表四級五号の「一下肢をひざ関節以上で失ったもの」に該当)

・ 年収二二四万円

・ 昭和二五年九月一日生で症状固定当時二七歳、就労可能年数三八年(ホフマン係数20.97)

(一一) 慰藉料 一〇八七万円

(1) 入、通院分 四〇〇万円

(2) 後遺障害分 六八七万円

以上合計 八〇三八万七〇六八円

7  原告会社の弁済

原告会社は訴外加藤に対し、前記損害の賠償として、昭和五三年七月一八日までに一九九〇万一九三九円、同五六年三月三一日に一九五〇万円、合計三九四〇万一九三九円を支払った。

8  原告らの慰藉料

各自五〇〇万円

被告らの訴外加藤に対する前記不法行為のため、原告らは訴外加藤から多額の支出を求める訴訟を提起され、長期間にわたり物的、精神的に多大の被害を被った。

よって、原告会社は被告らに対し、共同不法行為者相互の求償権に基づき、各自求償金三九四〇万一九三九円及び内金一九九〇万一九三九円に対する最終出捐日の昭和五三年七月一八日から、内金一九五〇万円に対する出捐日の翌日の同五六年四月一日から、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による利息の支払を求め、原告ら各自は被告らに対し、各自不法行為による慰藉料五〇〇万円及びこれに対する遅滞後の同年九月一九日(昭和五六年五月二二日付「請求の趣旨訂正の申立」と題する書面送達の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実中、訴外加藤が昭和四九年一〇月三〇日交通事故に遭遇したことは認めるが、その余は知らない。

2  請求の原因2の事実は認める。

3  請求の原因3の事実は知らない。

4  請求の原因4の事実中、訴外加藤が交通事故後直ちに被告森川の経営する岐阜県恵那市長島町中野六一六番地所在の森川病院に運ばれ、昭和四九年一一月八日同病院に勤務する被告山名から内副子固定法の整復手術を受け、同五〇年一月二〇日まで同病院に入院していたことは認めるが、その間に骨髄炎を併発したことは否認し、その余は知らない。

仮に訴外加藤が右森川病院に入院中骨髄炎を併発していたとしても、その後の結果は被告らと相当因果関係がない。

被告は訴外加藤及びその母親に対して昭和五〇年一月六日ころ再手術の必要を説いたが聞き入れられず、訴外加藤は同年一月二一日に転院したものである。なお、転院先の病院では早急に手術をする必要があったのに昭和五〇年四月二三日にこれを行っている。

また、訴外加藤が治療中に転倒したことも同人の右大腿部切断の決定的な要因となっている。

5(一)(1) 請求原因5の(一)の(1)の事実中、訴外加藤の入院直後同人にビスタマイシン、ジョサマイシンを投与したことは認めるが、その余は否認する。

ビスタマイシン、ジョサマイシンは感受性の広範に及ぶ抗生物質である。

(2) 請求の原因5の(一)の(2)の事実は否認する。

被告山名が訴外加藤に手術を行った昭和四九年一一月八日当時、同人の患部の腫張が軽過し、外傷ショックは快復し、体温は平熱で白血球増多も認められず、粉砕骨折の転位が高度で、牽引療法を続けても効果がないと判断された時期で、手術時期には全く問題がない。

(3) 請求の原因5の(一)の(3)の事実は否認する。

被告山名は本件手術に際して骨癒合部及び手術創筋層に感受性の広いクロロマイセチンゾルの局所注射をした。

(4) 請求の原因5の(一)の(4)の事実中、本件手術の方法として内副子固定法を選択したことは認めるが、その余は否認する。

骨折の治癒で最も留意しなければならないのは、より完全な整復と固定である。

そして、訴外加藤の骨折が右大腿骨骨幹部中央より下方三分の一部を中心とするものであり、しかも粉砕骨折で、斜骨折も伴っていることからすれば、内副子固定法が閉鎖性髄内釘固定法より優れている。

更に、閉鎖性髄内釘固定法で骨髄炎を起すと、極めて難治である。

(5) 請求の原因5の(一)の(5)の事実中、本件手術後訴外加藤に適応範囲の広い抗生物質を投与したことは認めるがその余は否認する。

森川病院のように初期治療を目的とする救急病院では、細菌に対する感受性の広範囲に及ぶ抗生物質を用いるのが常道であり、訴外加藤には右常道に従ってビスタマイシン、ジョサマイシン、クロロマイセチンゾル、クロロマイセチンサクシネード・テトラサイクリンの各抗生物質が投与された。

その結果、発熱があったのは手術の翌日の昭和四九年一一月九日から同月二五日までの間であり(手術後の体温の上昇は一般的に認められるものである。)、その後は転院に至るまで平熱を保持し、白血球の数も血液一立方ミリメートルにつき同月八日に九二〇〇個、同月一七日には一四四〇〇個に達したものの、同月二七日には九七〇〇個と良好に推移している(正常値は血液一立方ミリメートルにつき五〇〇〇ないし一〇〇〇〇個)ので、本件患部に細菌感染があったとは考えられない。

ただ、訴外加藤には粉砕骨折による小骨片が多数あったので、手術創の一部から排出液があったとしても(仮にそれが膿であったとしても)、それは骨髄炎と診断すべきではなく、壊死骨によるものと判断すべきである。

(二) 請求の原因5の(二)の事実はいずれも認める。

6(一)  請求の原因6の(一)の事実中、(1)の事実は認めるが、(2)の事実は知らない。

(二)  請求の原因6の(二)ないし(一一)の事実はいずれも知らない。

7  請求の原因7の事実は知らない。

8  請求の原因8の事実中、被告らが訴外加藤に不法行為を行ったことは否認し、原告らが訴外加藤から訴訟を提起されたことは認め、その余は知らない。

三  抗弁

原告会社は、本件交通事故に関して、強制保険から六八七万円、任意保険から一〇〇〇万円のてん補を受けている。

四  抗弁に対する認否

(補助参加人)

抗弁事実中、原告会社は本件交通事故に関し、強制保険から八〇万円、任意保険から一〇〇〇万円のてん補を受けていることは認めるが、その余は知らない。

第三 証拠〈省略〉

理由

一交通事故の発生

請求の原因1の事実中、訴外加藤博が昭和四九年一〇月三〇日交通事故に遭遇したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、その余の事実も認められる。

二訴外加藤の受傷

請求の原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三原告らの責任

〈証拠〉によれば、請求の原因3の事実が認められる。

四医療事故の発生

請求の原因4の事実中、訴外加藤が本件交通事故後直ちに被告森川の経営する岐阜県恵那市長島町中野六一六番地所在の森川病院に運ばれ、昭和四九年一一月八日同病院に勤務する被告山名から内副子固定法の整復手術を受け、同五〇年一月二〇日まで同病院に入院していたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、その余の事実も認められる。即ち、

1  森川病院入院中に骨髄炎を併発した点につき

(一)  右関係各証拠によれば、訴外加藤には右森川病院に入院中次のような骨髄炎の併発を疑うべき症状のあったことが認められる。

(1) 昭和四九年一一月七日の白血球数は九二〇〇/mm3であったが、手術後の同月一六日には一四四〇〇/mm3となり、体温も同日は最高三八度C、その翌日には最高38.7度Cとなった。

(2) 同月二〇日の体温は最高37.9度Cで、患部に一箇所瘻孔が生じた。

(3) 同月二二日の体温は最高37.7度Cで、患部の瘻孔が三箇所に増加し、強い疼痛を訴えた。

(4) 同月二三日の体温は最高38.6度Cであった。

(5) 同月二八日には九七〇〇/mm3に減少した白血球数は、昭和五〇年一月八日には一三六〇〇/mm3に増加した。

(二)  右関係各証拠によれば、訴外加藤は昭和五〇年一月二一日岐阜県立多治見病院へ転院したが、患部からの排膿が多く、また、同月二四日、患部から緑膿菌が発見され、その後黄色ブドウ状球菌も発見されて、骨髄炎の発症が明らかになったことが認められる。

(三)  したがって、右(一)、(二)の事実を総合すると、訴外加藤は森川病院に入院中既に骨髄炎を併発していたことが推認される。

2  骨髄炎により患部の骨が壊死した点につき

右関係各証拠によれば、

(一)  骨髄炎は骨の内部にある骨髄が侵入した細菌により炎症し、進行するとうみで血流を阻害された骨が死んで腐骨になること、

(二)  右県立病院では、昭和五〇年四月二三日、同年七月二一日、同年八月一三日、同五一年五月一七日の四回にわたり、訴外加藤に対して病巣掻爬等の手術を行っていること、などの事実が認められるので、これらの事実によれば、訴外加藤の患部には壊死骨が見られ、しかも、これを除去した後も更に壊死が進行する状態が一年間ほど続いたことが推認される。

3  患部の骨の壊死と右足切断手術との因果関係の点につき

右関係各証拠によれば、

(一)  訴外加藤の本件交通事故による骨折は粉砕骨折であった上に、患部の骨の壊死が進行した結果、患部の整復手術、更には骨移植手術によっても、骨癒合が成功する確率に問題があったこと、

(二)  訴外加藤の骨髄炎が消退した後の昭和五一年九月六日、右県立病院で同人に対する骨移植手術が行われ、その後の経過が観察されることになったが、そのころ、同病院の廊下を車椅子で散歩中の同人が転倒したため、骨髄炎が再び発症したこと、

(三)  右骨髄炎の再発は、訴外加藤の骨折の治療を更に長期で困難なものにしたため、治療費の増大、家族の生活の維持等の問題も考慮した訴外加藤は、遂に右足切断手術による治療の短期打切りを決意するに至ったこと、

などの事実が認められ、つまるところ患部の骨の壊死は訴外加藤の骨折を難治なものにした一因をなし、骨折の難治は同人の右足切断の一因をなしていることが認められるのである。その過程に訴外加藤や第三者の作為、不作為が介入しても、結果が骨髄炎の発症と無関係でない限り、原因の寄与度の問題として把握すべきものである。

五被告らの責任

(被告山名)

1  訴外加藤の本件交通事故による骨折は粉砕骨折であったことは既述のとおりであるが、〈証拠〉によれば、右骨折は閉鎖性骨折で、骨折の付近に外界に通じる創傷はなかったことが認められる。

そして、訴外加藤の骨髄炎の併発は、被告山名による整復手術が行われた後であったことも既述のとおりである。

そこで、これらの事実を総合すると、訴外加藤に骨髄炎を併発させた起炎菌は、右整復手術の際に同人の患部の骨髄に侵入し、定着したものと推認される。

したがって、訴外加藤が森川病院に入院した当時既に骨髄炎を併発していたことを前提とする請求の原因5の(一)の(1)の過失を認めることは難しい。

また、右起炎菌の侵入経路を特定するに足りる証拠がなく、侵入した起炎菌に対する発病の諸条件について必ずしも明らかでない本件では、請求の原因5の(一)の(2)ないし(4)の過失を認めることも難しい。

2  しかし、〈証拠〉を総合すると、請求の原因5の(一)の(5)の過失を認めることができる。

(被告森川)

請求の原因5の(二)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

六訴外加藤の損害

1  治療費

(一)  請求の原因6の(一)の(1)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  〈証拠〉によれば、請求の原因6の(一)の(2)の事実が認められる。

なお、右各証拠を総合すると、訴外加藤の症状は昭和五三年八月一四日に一応固定したものと診断されて同人は退院したが、その切断部に再び瘻孔が生じて義足歩行が不可能になり、骨髄炎再発の可能性もあって再入院したものであることが認められる。

2  付添看護料

入院一日二〇〇〇円あるいは二五〇〇円の付添看護料は当時において相当であり、既に認定した訴外加藤の受傷内容、治療状況によれば、二九四万七五〇〇円は損害額として認容し得る。

3  入院諸雑費

一日五〇〇円の入院諸雑費は当時において相当であり、既に認定した訴外加藤の受傷内容、治療状況によれば、六九万九〇〇〇円は損害額として認容し得る。

4  入院中の食事代

〈証拠〉によれば、付添人の食事代であることが認められるので、付添看護料に含まれるべきものである。

5  入院中の布団代

〈証拠〉によれば、付添人の布団代であることが認められるので、付添看護料に含まれるべきものである。

6  入院中の文書代

入院諸雑費に含まれるべきものである。

7  通院交通費

〈証拠〉によれば、請求の原因6の(七)の事実が認められる。

8  義足代

〈証拠〉によれば、請求の原因6の(八)の事実が認められる。

9  〈証拠〉によれば、請求の原因6の(九)の事実が認められる。なお、昭和五三年八月一四日が完全な症状固定日でなかったことは既述のとおりであるが、本件では訴外加藤の休業損害及び後遺障害逸失利益の関係において一応固定した日に扱っても不都合はない。

10  後遺障害逸失利益

年収は約二二四万円、右大腿部の切断手術を受け、症状が昭和五三年八月一四日に一応固定したことは既に認定したところである。また、〈証拠〉によれば、生年月日は昭和二五年九月一日(右固定時は二七歳)であることが認められる。しかし、他方、〈証拠〉によれば、同人は現在ビデオ部品の組立会社に勤務し、月収は約一三、四万円であることも認められる。

そこで、これらの事実を総合し、労働能力の喪失率を六〇パーセント(但し、訴外加藤の本件事故前の年収を1.7倍にして計算)、就労可能年数を三八年(ホフマン係数20.97)として、逸失利益を二八一八万三六八〇円とするのが相当である。

11  慰藉料

既に認定した入、通院状況及び後遺障害の程度により、入、通院分の慰藉料として四〇〇万円、後遺障害分の慰藉料として六〇〇万円を認容し得る。

以上によれば、訴外加藤の相当損害額は合計五九一七万二六〇八円となる。

七訴外加藤の過失相殺

1  転院

訴外加藤が昭和五〇年一月二一日森川病院から岐阜県立多治見病院に転院したことは既述のとおりであるが、転院をしなかったならば現に生じた結果よりも治療効果が上がっていたであろうことを認めるに足りる証拠がないので、右転院が訴外加藤の過失であるということはできない。

2  転倒

訴外加藤の右県立病院での転倒が同人の右大腿部切断手術をもたらす要因になったことは既述のとおりであり、また、〈証拠〉によれば、右転倒は訴外加藤が車椅子の操作に不慣れなために生じたものであるが、車椅子に乗ることについては担当医師の許可を得ていたことが認められる。

そこで、これらの事実を総合すると、因果関係の明白な訴外加藤の義足代、後遺障害逸失利益、慰藉料(後遺障害分)については、それぞれ七〇パーセント程度の過失相殺をするのが相当であり、したがって、義足代は八万四六三〇円、後遺障害逸失利益は八四五万五一〇四円、慰藉料(後遺障害分)は一八〇万円となるので、認容し得る損害額は合計三五〇四万六五六二円となる。

八当事者双方の各負担部分

訴外加藤の前記損害に対する当事者双方の各負担部分は、右損害の発生に対する原告西村及び被告山名のそれぞれの寄与度に応じて定めるべきところ、〈証拠〉によれば、訴外加藤の本件交通事故による損害は骨髄炎を併発することなく順調に治療効果が上がった場合には松葉杖をついて歩けるようになるまで半年から一年近くを要し、ただ、膝の屈曲制限等が多少残る可能性のあったことが認められる。しかし、本件で順調に治療効果が上がった場合の損害額を推認し得る証拠がない。

したがって、本件では当事者双方の各負担部分はそれぞれ五〇パーセントであると解すほかはない。

九原告会社の弁済

〈証拠〉によれば、請求の原因7の事実が認められる。

したがって、原告会社の弁済は、その負担部分を超えて被告らの負担部分についても弁済をしたことになり、原告会社は被告らに対して各自金一七五二万三二八一円(訴外加藤の前記損害額三五〇四万六五六二円の二分の一)の求償権を取得したことになる。

つまり、原告会社が昭和五三年七月一八日までの間に弁済した一九九〇万一九三九円から原告会社の負担部分一七五二万三二八一円を控除した残額二三七万八六五八円及び原告会社が昭和五六年三月三一日に弁済した一九五〇万円のうち一五一四万四六二三円につき求償権を取得したことになる。

一〇保険金によるてん補

抗弁事実中、原告会社が本件交通事故に関して任意保険から一〇〇〇万円のてん補を受けたことは当事者間に争いがなく、まただ強制保険からてん補を受けた点については八〇万円の限度で当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、その余の事実も認められる。

しかし、右保険金によるてん補は、原告会社がその負担部分の支払をしたことに対してなされたものと推認されるので、原告会社の被告らに対する求償権を左右するものではない。

一一原告らの慰藉料

共同不法行為者は被害者に対してその損害の全部につき責任を負うものであり、また、共同の免責を得る出捐をすれば他の共同不法行為者に対しその負担部分に応じて求償権を行使し得るものである。したがって、原告ら自身の慰藉料を認める必要がないので、主張自体理由がない。

一二結論

以上によれば、原告会社の本訴請求は、同原告が被告らに対して各自求償金一七五二万三二八一円及び内金二三七万八六五八円に対する最終出捐日の昭和五三年七月一八日から、内金一五一四万四六二三円に対する出捐日の翌日の昭和五六年四月一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による利息の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、原告会社のその余の請求及び原告西村の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。なお、原告会社の仮執行宣言の申立てについては、相当でないからこれを却下する。

(裁判官佐伯光信)

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